投稿動画(YouTube)の発信は自前で行うことで世界観が伝わる

動画でコンテンツを作成、公開する場面が中小企業・小規模事業者でも多くなってきた。そこでどのような作り込みが良いのか、何が求められているのかを考え、費用対効果も考えながら自分たちができうることとの接点を探していこう。

例えばクルマを買い替えようとすれば、ディーラーを回って営業の話を聞いて現物を見て試乗を行うとともに、インターネット等での専門家などの評価を見ることが多いだろう。その際に動画(YouTube)のコンテンツを見る機会がある。

ここで気付くのは、メーカーの公式動画があるにも関わらず、(ときにメーカーから依頼を受て)レビューや使い勝手などを報告する投稿動画があるということ。本来なら公式動画とカタログがあれば事足りるはずだが、それだけではないのには理由がある。

公式動画はイメージ映像で、自分がそのクルマを乗ったらこんな生活が待っているといったライフスタイルを想起させるものが多い。例えば、家族で河原に行ってリアハッチが開いてランタンの灯が灯っているカットがあれば、このクルマで家族にアウトドアへ行ければこんなことがあるだろう、という需要喚起につながる。いわば乗る人の利点を訴求する最大公約数を映像化したものである。

これに対し、YouTubeでの投稿者たちは、細部の使い勝手やディディールのアップを行いながら私見を加えて説明していく。そのほとんどはカタログに掲載されていることであるが、現物をもとに説明するのがわかりやすく、また繰り返し見ることができる。さらに営業担当者に気兼ねすることも気後れすることもないし非接触での営業活動となっている。

投稿動画でのアプローチもいくつかある。ひとつはビジュアルに工夫を施し、製品の良い面を中心に説明していくもので、いわば手作りの動画カタログといった趣。可愛い女性が解説を行うことで彼女を見たさに閲覧数が増加。そこには動画作成のテクニックを駆使して演出を加えていく(動画の編集には手間をかけている)。メーカーがインフルエンサーの広報効果に期待するのもこのパターンである。

もうひとつは、お金をかけずにコメントの内容で勝負するもの。ある投稿動画では、サングラスをかけた男性が忖度なく(といっても節度は守られている)コメントを行って採点するもの。この手のコンテンツは反感を買う恐れもあるが、コメントに合理的な理由や根拠が感じられれば意外に悪い評価は少ない。

もちろん再生回数の増加をねらっているのだが、投稿者のクルマへの問題意識や動機が窺われて好感を持つようになる。そこに世界観、判断のモノサシ、信条が感じられるからである。例えば人気のヤリスクロスもこの動画では評価は低いが、投稿者が売れ筋の商品という現実におもねることなく、ていねいに見ていった結果の意見として説得力がある。

つまり公式のイメージ動画やメーカーの鞄持ち的な動画よりも、手作り感だが思いのある後者のほうが味わいがある(編集も技巧を凝らしておらず主にカットとつなぎのみである)。もうおわかりのように、ここから見えてきたことがある。

それは小規模事業者持続化補助金などを使って動画コンテンツを作成する際に、プロに頼むとメーカーの公式動画のようなイメージの最大公約数的なものができあがる。しかしそれはファンを獲得する情報ではないのである。Webやチラシもそうだが、プロの常識でつくるプロズレしたコンテンツは、依頼されたほうも依頼したほうも満足なので丸く収まるが効果はないということ。

YouTubeのインフルエンサー・マーケティングは「よいしょ動画」ばかりでつまらないものとなっている。そうではなくて、自社が自ら発信していく必要性はないだろうか。開発責任者、販売担当者などが自らの言葉で淡々と説明しながら思いを伝える手作り感のある発信が好感度が上がるのではないだろうか。発信者が自分の言葉で(ときに弱点も含めて)語ることができれば、インフルエンサー・マーケティングなど不要になるはず。

その一例がカメラーメーカ(レンズメーカーであるが)のシグマ。ここでは山木社長自らが出演して、ときに他社の製品を評価、自社の製品を謙虚に振り返りながら、製品をつくった意図、ねらい、思いを率直に語る。そのことでシグマはここ十年程度で世界的にものづくりの評価を上げているように見える(ぼくもライカやコンタックスよりもシグマを選びたい)。

以上のことから、中小企業・小規模事業者が自社のアピール動画を作成するときは以下の点に留意して作成されみてはどうだろう。

  • 動画作成業者に依頼する前に自社でやってみる。高価な器材は不要。動画撮影のできる機材(スマートフォンでも可)、三脚(もしくは手持ち)、編集ソフトがあれば最低限のことはできる。
  • シナリオ(おおまかな項目の流れ)は必要だが、原稿棒読みではなく自分の言葉でしゃべる(ただし画面を写しながら原稿を読み上げるほうが円滑に情報を伝えられる場面はある)。
  • 自分が担当している、関わっている思いを秘めながらも客観的な視点で淡々と語る(効果をねらわない)。・商品の欠点も伝える。ただしそれには理由があることも説明する(この製品は~が欠点です。解決するためには~という方法があり検討を行いましたが、~の理由でこの仕様としております、など)。
  • 音楽は使わない。音楽はイメージ動画の印象につながる。
  • 動画の容量についてはYouTubeに適した仕様があるので経験者に尋ねる。
  • 製品の世界観を伝えるなら数十秒で収めるのは困難で10~20分ても構わない。そうではなく使いこなしのコツなどをワンポイントで説明するときには2~3分で行う場合もあり得る。

動画に限らず自前で動画を発信できれば、コアなファンを獲得する可能性が高まり、経営の安定に寄与するものとなる。