空気感染の怖れがある密閉空間では快適性を維持しながら迅速かつ必要な換気を行なうことが必要
〔理由〕
飲食店と小売店などとの大きな違いはマスクをはずすことです。新型コロナウイルス(COVID-19)の主要な感染ルートとされる接触感染(手指の減菌)、飛沫感染(マスクの正しい着用)ですが、これらについては運用を決めてルールを守れば防ぐことが可能です。
ところが空気感染について言及していなかったWHO(*)、CDC(アメリカ疾病予防対策センター)などの専門機関は今夏以降、混み合った場所や閉ざされた場所での空気感染の可能性を除外しない(*)との見解を発信しています。人の呼気から排出される飛沫より小さな粒子に感染の可能性があるということであれば、飲食店として対策が急がれます。
*WHOが2020年7月9日の記者会見で発表した内容
https://www.who.int/news-room/commentaries/detail/transmission-of-sars-cov-2-implications-for-infection-prevention-precautions
*CDCの2020年9月11日のレポート
Eating and drinking on-site at locations that offer such options might be important risk factors associated with SARS-CoV-2 infection. Efforts to reduce possible exposures where mask use and social distancing are difficult to maintain, such as when eating and drinking, should be considered to protect customers, employees, and communities.
https://www.cdc.gov/mmwr/volumes/69/wr/mm6936a5.htm
* 「COVID-19 can sometimes be spread by airborne transmission」
(CDCが2020年10月5日に改訂した新型コロナの主な感染経路の見解)
https://www.cdc.gov/coronavirus/2019-ncov/more/scientific-brief-sars-cov-2.html#:~:text=Scientific%20Brief%3A%20SARS%2DCoV%2D2%20and%20Potential%20Airborne%20Transmission,-Scientific%20Brief%3A%20SARS&text=The%20principal%20mode%20by%20which,respiratory%20droplets%20carrying%20infectious%20virus.
ビル管理法の基準に基づく換気の重要性
空気感染の怖れがあるということで換気が求められますが、その際にビル管理法で必要換気量として求められる基準があります。部屋の最大定員を設定して1人あたり毎時30立法メートルを行なえば換気の悪い空間に当たらないとするものです。厚生労働省の参考資料では以下のように記載されています(*)。
「専門家会議の見解における「換気の悪い密閉空間」とは、一般的な建築物の空気環境の基準を満たしていないことを指すものと考えられる。その意味では、ビル管理法の基準に適合させるために必要とされる換気量(一人あたり必要換気量約 30m3 毎時)を満たせば、「換気の悪い密閉空間」には当てはまらないと考えられる。」
「一人あたり必要換気量約 30m3 毎時という基準は、感染症を防止するための換気量として、実現可能な範囲で、一定の合理性を有する。ただし、この換気量を満たせば、感染を完全に予防できるということまでは文献等で明らかになっているわけではないことに留意する必要がある。」
*「商業施設等における換気の悪い密閉空間を改善するための換気について」/(厚生労働省参考資料)
https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000616069.pdf
エアコンの熱を逃がさず騒音や省エネルギーにも優れた全熱交換器による換気
換気の必要性は理解できますが、真夏や真冬に窓を開けると高温多湿や乾いた冷気が侵入して快適性が低下します。春先にはPM2.5や花粉の問題もあるでしょう。都市部ではプライバシーの保全、外部からの騒音や排気ガス、内部の音が漏れると近所迷惑となることもあるでしょう。このように飲食店などにおける自然換気には一定の限界があることは事実です。
換気については自然吸気(窓開けもしくは吸気スリット)と換気扇(機械排気)が一般的ですが、吸気スリットがなく換気扇だけ動かしても部屋の空気圧が下がるだけで(陰圧)、換気扇を回しても部屋の空気は排出されません。換気扇の数よりも吸気と排気の流れを意識してください。吸気は排気ガスなどの少ない方向から採り入れてボックス席や人が溜まる場所に近いところの換気扇で排出するのが基本です。
換気については決定版といえる方式がありあす。それが全熱交換器による換気です。室外の新鮮な空気をファンで吸気し室内の汚れた空気をファンで排気を行なうので空気の入れ換えが換気扇よりも早いのが特徴です。さらに熱交換ユニットにより外の熱気や冷気をやわらげ、夏は除湿も行うのでエアコンで維持する室温を逃がさない利点があります。
全熱交換器は設置費用、維持費を含めた費用対効果が優れた方式です。設置費用や運用コスト(電気代)は自己資金で賄える範囲に収まるでしょう。飲食店に限らず幅広い業種で活用可能です(全熱交換器では24時間365日止めない運用が可能)。
全熱交換器による換気システムは、三菱、パナソニック、ダイキン等から発売されています(すでに半世紀の実績があるメーカーもあります)。吸排気のためのダクト工事が必要となりますが、外付けで対応できる機種もあります。風の流れを設計する必要があること、風量計算やダクト工事、ダクトの風圧調整が必要となるなど技術的な留意点があるので空調工事に精通した業者に依頼してください。
空気清浄機は換気の補完の意味合い
換気だけで空気中の二酸化炭素濃度を下げられたら(つまり換気ができていることの証し)空気清浄機はなくてもよいかもしれません。しかし空気清浄機は来訪者に安心感を与えるので私は併用することをおすすめします。それも一定の風量を持ちHEPAフィルターを備えた空気清浄機が必要です。
そこで換気の補完として空気清浄機の活用が考えられます。そのためにはHEPAフィルターを装備している機種を選ぶ必要があります(*)。設置は人が集まる座席周辺や空気が淀む場所です。フィルター性能が生命線となることから取扱説明書での寿命よりも早く交換するのが適切な運用となります。繰り返しますが空気感染(飛沫核感染)の対策では換気が主で空気清浄機はあくまでそれを補う役割です。
*参考資料/「熱中症予防に留意した「換気の悪い密閉空間」を改善するための換気について」(厚生労働省、令和2年6月17日)
https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000640920.pdf
①HEPA フィルタ付。かつ風量が5立法メートル/分以上
②人の居場所から離れない場所(10㎡ 程度)に空気清浄機を設置
〔参考〕フィルターについて
- フィルターは時間とともに空気の流量が減少し効果は落ちる。
- フィルターはメーカーの喧伝するほど持たない。
- 飲食店では油煙や喫煙環境ではさらに短くなる怖れ。
- 加湿機能の使用は内部にカビ発生の怖れ。
〔参考〕イオンについて
- 感染症に効果ありとのメーカーの報告はあるが、実験室など一定の条件下のみ。
- イオン(オゾン)の発生装置付は体調管理に注意。
- → 体調が悪くなればイオン発生を止める
(大きな空気清浄機を何台置いたところで本質的な感染症対策とは言えません。あくまで換気が主です)
遮蔽板(仕切り板)は必要だが運用には工夫も必要
スーパーコンピュータ「富岳」の解析を見る限り、飲食店における遮蔽板の設置は不可欠のように思われます。その高さは床から1.4メートルが推奨されています(これは机に座る場合の床からの高さでしょう。床にしゃがむ場合は頭が隠れる高さが目安と考えます)。
仕切り板を置かないのであれば千鳥配置(はす向かい)に設定するのが前に座った人や隣の人からの飛沫(大声での会話やくしゃみなど)を浴びる怖れが少ないとされています。
ただし夫婦やカップル、家族で飲食する場面などでは遮蔽板は不要です(おそらく車内や家庭でもマスクをしていないでしょう)。職場の少人数グループでの飲食は要望によって設置したほうが良いでしょう。富岳の解析から判断すれば、異なるグループ間は距離を離す(現実的には1メートル以上)べきでしょう。
このように遮蔽板は来客の構成を見ながら設置したり除去したりしながら運用することを奨めます。残念ながら県内の飲食店を数多く見てきましたが、空気清浄機やイオン発生装置を置いてそれでよしとしている事例が多いように見受けられます。
飲食店は感染の最前線にあると考えて対策を施してください。
感染症対策には手間はかかりますが、意外にもお金はそれほどかからないかもしれません。
かかったとしても国や県の支援施策が活用できる場面があります。
顧客も従業員も自分たちの身の安全を守ってこその経営です。
私が知る限り、対策を万全に行いそれを啓発している事業所はコロナ禍でも売上はあまり落ちていないことも申し添えておきます。